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遠くに行っちゃったら、会いに行く時間を作るのだって大変だし、交通費だって掛かる。まだ学生でしかも学費をバイトで賄ってる僕には、遠距離恋愛なんて到底無理なコトだと思った。
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3
ある日、僕がバイトに来ると、休憩室で副店長が見慣れないスーツ姿の男とコーヒーを飲んでいた。
「あ、榎並くん。学校お疲れさま」
副店長がいつも通りに声を掛けてくれた。僕はちょこんと会釈して棚からユニフォームを取り出す。その見慣れない男はジロジロと僕を見ては副店長を横目で見て、上目遣いに見下したように再び僕を見た。監視されてるようで僕は萎縮した。カチコチになりながら更衣室に入る。
「相田はどうするんだ? 本社に戻る気はないのか?」
着替えながら休憩室の声に聞き耳を立てた。その一言で奴が本社の社員だと察した。
「戻りたくありません、楽しいから」
「男遊びが、か?」
副店長が男遊び? そんなことするはずない。あんなに真面目に働いてるのになんて失礼な奴なんだ。だいたい、初対面の僕を馬鹿にしたように眺めてさ。
「先輩。免疫ないコドモがいるのよ? 辞めて、そんな話」
「免疫ないなら尚更だろ? 付けとかないとなあ」
コドモって僕のこと? 副店長??
「あのな、戻してやるって言ってんだぞ。俺が人事部にいるうちがチャンスなのに……また可愛がってやるよ?」
副店長って本社人事部にいたんだ。奴は本社時代の上司ってところか。なんだよ、可愛がってやるって。いかにも体の関係があったみたいじゃないか そうか……。奴は副店長を抱いたんだ。あの白い肌を見て触れたんだ。彼女だって28だし、処女の筈もない。それは頭では分かっている。分かってるけど他の男に触れてほしくない。見てほしくない。
僕はいつまでも聞き耳を立てていたかったけど、長時間着替えてるのも変に思われるから仕方なく更衣室を出た。副店長の白いハダカを想像して恥ずかしくて、目の前にいる奴に取られたことが悔しくて副店長から目を逸らしていた。
「バイトも大切な『商品』だから、手をつけるなよ。俺がいつでも相手になるから」
「私は先輩のように鬼畜じゃありません」
「ははは。新入社員に手をつけるような人間と一緒にしないでくだい、って言いたい?。あの頃はこんな口答えはしなかったよな。あんなに可愛かったのに。そんな風に跳ね返されるとますます鳴かせたくなる」
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