自由科学同好会発足

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   その日の空は、腹に一物を抱えたような曇天だった。  通勤、通学ラッシュの時間帯。ドラマなどでは、すし詰め状態の乗客が手前勝手な理由で他人と押し合い圧し合いしているが、こんな片田舎のワンマン車両でそんな光景を見る事は滅多にない。  車窓から見えるいい加減見飽きた風景が早送りで流れていく様を、ただぼんやりと見送りながらそんな事を考えていた。  規則的な上下動と車内に設けられた首振り式の扇風機の風が、鬱陶しい前髪をチラつかせる。座る位置を少しズラしながら今朝お袋に手渡されたビニール傘を握り直した。  普段お袋が使っているピンクの花柄の傘と、安いビニール傘の二択を迫られて渋々安っぽい方を選んだのだ。紺色のシックな傘は親父が使うらしかった。お袋も歳を考えて欲しいものだ。ピンクの傘なんて使われると身内が恥ずかしい思いをするのに。  身内の恥に僅かに体温が上昇している間に目的の駅に到着した。ここで降車する人数は俺を含めて十数人。車内にはお年寄りやスーツ姿の男性数人しか残っていなかった。  如何にもそれが日常的だと言うように、数名と連れ立って登校するのは上級生だろう。俺と同じく、まだブレザーに着られている印象を受ける同級生も、先輩方の後ろを付かず離れずの距離を保って登校する。俺もそれに倣った。    木造の校舎の床を軋ませながら、一学年一クラスしかない教室へと向かう。既に七月も半ば、鉛色の雲に隠れた忌まわしき太陽の残滓は、それだけで薄っすらと汗を誘う。首下を大胆に開いて少しでも風を送ろうとするが、あまり効果的とは言えなかった。 「はよっす」  この高校への進学率の八割を地元の人間が占めているだけあって、その一言に方々から返事が上がる。肩書きこそ高校生になったが、中学時代となにも変わらない日常が続いていく。  そう思っていた。  
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