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―――February
「こんばんわ」
「ねぇ、スノウ」
「なんだい?」
ベッドの上で目を瞑りながら口を動かすノエル。
スノウは微笑みながら話を聞く。
「桜って見たことある?」
「……桜が咲く頃には雪は溶けてしまうから、僕は桜を見る事ができないんだ」
「なんで?」
ノエルは目を開いて窓際に腰掛けるスノウを眺める。
「僕は雪の精霊だって言ったじゃないか」
ノエルは、初めて会った晩のことを思い出す。
スノウは、自分が住む街の事も、何者かも喋らない。
精霊だと名乗り続けるのは、出会った日からずっとだ。
「桜、見たことないんだ」
「ノエルも?」
「実際に見たことはないわ」
「そっか」
スノウは、視線を外へと向ける。
「ねぇ、一緒に桜を見に行きましょうよ」
ノエルの言葉に、スノウは困ったように笑った。
* * *
―――March
スノウはノエルの部屋に来なくなった。
「スノウ……」
ノエルの手に握られているのは、一本の花。
三日前にスノウが持ってきた花。
疲れたような顔を隠すように微笑みながら、ノエルに渡した。
「春が近づいてきたようだね」と、いつものようにたわいない会話をして。
ノエルは、スノウの身に何かあったのかと、不安気に窓の外を眺める。
静かな部屋。
風がカーテンを揺らす。
ノエルは微かな声を聞いた。
「ノエル」
それは、幾度も聞いた声。
「スノウ?」
白髪の少年の姿が脳裏を掠める。
ベッドから降り、窓際へと近づいていく。
「ノエル、久しぶり」
意識しないと聞き逃しそうな、微かな声。
「スノウ、何処にいるの?」
「桜、見れそうにないや」
ごめんね、と最後に言うと、声はやんだ。
「スノウ?ねぇ、スノウ?」
ノエルが窓の外を見渡すと、1ヶ月前にはあった雪は、全て溶けて消えていた。
「……スノウ、雪、消えちゃったよ」
スノウに贈られた花が、ノエルの手から離れる。
風に揺られ、花は初春の地面へと落ちた。
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