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人間関係を円滑にするために、日頃は控えめな人間を装っていたわたし。
自分からアクションを起こすことなんて絶対しなかった。
でも、我慢の限界っていうものがある。
「前から、どんなふうに噂を流しているのか知らないけど。わたしが気に入らないなら関わらないで」
「はあ…………!?」
言った。言ってしまった。
でもこれでいい。
正直わたしも我慢の限界だった。
今回の件だって、わたしは完全に被害者だと声を大にして言いたいところなんだ。
「あんたってほんっと最低!八方美人でいい顔しいな、男好きのくせに!!」
愛子は右手を大きく振りかぶって、そのままわたしに向かって振り下ろす。
向かってくる手のひらは、スローモーションのように見える。
あぁ、すっごく痛いんだろうな。 一日中腫れるかも……
なんて思いながら、歯を食いしばって、目をぎゅっと瞑った。
だけど、教室に鳴り響くはずだった強烈な平手打ちの音は、
いつまで経っても鳴らない。
そういえば一瞬前、教室の扉が開く音がした。
……誰か、来た?
確かめるように、そっと目を開けた。
平手打ちをするはずだった張本人は、何故か手を振り上げたまま、わたしの背後を見て固まっている。
「え、な、んで神谷くんが……」
愛子は、弱弱しい声でつぶやいた。
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