偶然が重なる日

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『神谷くん』 そう呼ばれた人は教室のドアの前にいて 片手はポケットに、もう片方の手はドアに添えられたまま立っていた。 彼の端正すぎる顔が綺麗に歪む。 口元は上がっているのに、目は笑っていない。 綺麗な顔だからこそ、余計に怖く感じる表情。 先ほどまでわたしに敵意をむき出しにしていた彼女を、軽蔑しているように見える。 「お、おっすユキ」 と、賑やかグループのうちの1人の冴島くんが気まずそうに言う。 だげど冷たい顔のまま、冴島くんの言葉には反応しなかった。 「なにこれ。公開イジメ?」 静寂しきった教室に、低く冷たい声が落とされた。 彼氏が居ながらも愛子がユキに熱をあげていたのはみんなが知っている。 というより、人気者のユキに近づきたいと思っている女子が大半だと思う。 そんな人にこんな場面を見られてしまって愛子は完全に焦っているようで、目にきらりと光る膜が張っている。
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