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所変わって、ここは首相公邸。雛子の家である。
今雛子が何をしているかというと、片思い中の相手に気付かれないようこっそり盗み見ては溜め息をついていた。
これが最近の日課になっている。
相手の名前は高木弘人。
池田家の五人いる専属運転手の一人で、雛子付きになることが多い二十六歳の好青年だ。
彼は自分より年上で、今時の若者には珍しい品格のある人物だ。
何よりも趣味の星空観察と写真のことになるとキラキラ輝くあの瞳が大好きだ。
雛子が自分の感情に気付いたのはつい最近のことである。
今までも彼に懐いてはいたが、今の感情は当時のものとは全く違うものだ。
あの日、あの時、初めて自分を叱ってくれた人。
初めて自分がどれだけの人に気にかけられていたのかを教えてくれた人。
あの日のことは一生忘れない。
忘れられない。
大切なことを教えてくれた、今の私にとってとても大切な人。
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