恋する乙女ともえるチョコ

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 あれは、一年前の秋のこと。  学校からの帰宅途中の車の中。  楽しそうに笑っている下校途中の学生達を窓ごしにみつめながら、雛子はあることを決心した。  「家出」である。  父親が総理大臣になってから変わった、自由のきかない生活環境に嫌気がさしていたのだ。  今日はちょうど雨で、車も渋滞にはまっている。  逃げ出すなら今だ。  運転手に気付かれないようそっと深呼吸をすると、雛子はドアを押し開けた。  傘も持たずに走る。  助手席に乗っているボディーガードに追いつかれないようできるだけ速く。 「お嬢様!」  後ろで自分を呼ぶ声が聞こえる。  咎めるように。  それでも雛子は走った。  ほんの少しでも自由を掴む為に。  どれくらい走っただろうか。とりあえず二人をまけたようだ。  普段来ない道をやみくもに走ったせいで自分が今何処にいるのかは分からない。  だが気にはならなかった。  やっと手に入れた自由だ。
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