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サクサクと歩くライラシアに続いたまま進んでいくと、寮ほどではないがそれなりに大きな建物が目に入った。扉が立ち塞がっている。金銀の装飾が散りばめられたやたらと高そうな扉である。寮もかなりの金が掛かっていそうだったがこっちも凄い。
扉の奥からはなにやら良い匂い。己(おれ)の鼻が勝手に引くついている。
「マナーをきっちり守れとは言わないけれど、最低限みっともない真似だけはしないで頂戴ね。私が恥ずかしいのだから」
なんて言いながら扉を開くライラシアに肯定を返しつつ、己(おれ)は扉の先に広がっていた広間を目に捉えた。
うむ、何というか、キラキラしてやがる。やたらと。
白い布を長机目一杯に広げ、その上に大きな花瓶やら彫刻やら何やら色々と乗っている。
頭や服に白いヒラヒラを付けた若い女が何人も忙しなく動き回っており、食堂内の椅子には既に多くの子供が座っていた。
「食堂自体は自由席だから私の隣に座りなさい」
「うーい」
ライラシアが開いている席に座ったので、その隣の椅子に腰を下ろす。
「そこのメイド」
「あ、はい! ただいま」
メイド、とライラシアに呼ばれた茶髪の女が小走りで駆けよって来た。うむ、頭についている白いフリフリが非常に気になる。
「私はAコースを。こっちの男には昨日連絡したのをお願い」
「畏まりました。少々お待ちください」
ライラシアに告げられた言葉を小声で反芻しながら、メイドさんは去っていった。
「さて、じゃあ食事が来るまで待ちましょうか」
「ああ、今ので飯が来るのかい」
「ええそうよ。……それで、あなたは旅人だと言っていたけれど、あなたのいた場所では旅人は皆あなたくらい強いものなの?」
「んー? いんやあ、まあ己(おれ)ぁ向こうでも強い方だぜぃ」
強い方どころか妖怪最強と呼ばれてて、なおかつ向こうの人間最強に勝ってるけどな。
まあ、向こうの妖怪には己(おれ)以外四千年以上も生きてる奴なんぞいないから妖怪最強も当然っちゃあ当然なんだが。
「それを聞いて安心したわ」
「あん?」
「ううん、何でもない」
ライラシアの取り繕ったような笑みにもう一度言葉を掛けようかと思ったが、
「メニューをお持ちしました」
というさっきのメイドさんの声によって、己(おれ)のそんな考えは吹き飛んでしまった。
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