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とまあまったり進む道すがら。
む。
背後から己(おれ)に迫る気配。
何奴。
「よ」
「おう」
友人天狗だった。
「後ろから来るんじゃねーよアホ天狗」
「スマンスマン」
「ついつい勢い余って吹き飛ばすところだったぜ」
「それはやめてな? 狐相手じゃ軽くされただけでも俺の体はバラバラなのな」
少し慌てたアホ天狗。羽根を畳んで後ずさる。
けどまあ、
「大丈夫だろ、お前さんも一応大妖怪の端くれじゃねーの」
「キリじゃピンには絶対勝てないのな」
「はっはっは。どうだ参ったか、このキリ野郎め」
「参ったぞちくしょうめ、このピン野郎が」
実に乗りのいい奴である。
「で、天狗よ。お前さんは己(おれ)に何の用かね」
「いやぁ、見覚えのある狐が歩いてるのを見かけたからとりあえず後ろから不意打ちで突っ込んでみようかと思ってな」
「ぶっとばしても己(おれ)ぁ悪くねえよな?」
「すまんかった」
俊足最速平身低頭。
全力で額を地面に擦り付ける阿呆を、仕方がないから許してやる。
当然己(おれ)もコイツも本気で言ってるわけじゃあねーが。
「全く、本当は己(おれ)を付け回してぺろぺろしようとか考えてたんだろ。気持ちの悪い奴め」
「そんなこと考えちゃいないってのな!?」
「嘘つけ信じられるか。なにせお前さんは変態だからなぁ」
「狐の中で俺の印象がどうなっているのか激しく問いただしたい」
ほう、聞きたいと申すか。
ならば言ってやろう。
「変態」
言ってやった。
「訂正して欲しいのな」
我儘な奴め。
「超変態」
「変態から離れてくれな」
なんて我儘な奴だ。
「アホ天狗」
「離れたけどなんか納得できない」
「ゴミムシ」
「既にただの悪口になってると思う」
世間一般にゃ恐ろしいだなんだと言われちゃあいるが、実のところ妖怪なんぞこんなものである。非常に緩いのである。頭ゆるゆるである。
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