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「さあて、じゃあ己(おれ)は先を急ぐんでもう行くぜぃ」
「狐に先を急ぐ理由など有ったかね」
「変態に襲われたくないんだ」
「………………っ! …………っ!」
がっくりと膝を付いて地面を叩いている変態、もとい天狗を放っておいて、己(おれ)は道を往く。
アイツぁ無視。これでよし。
「……ってお前さん何でついて来てんの」
だが歩き始めて暫く。
気がつけば、変態天狗が傍にいた。
やはりコイツ、俺の体を狙っていやがる。あ、鳥肌立った。狐なのに鳥肌とはこれ如何に。
「いやぁ、最近俺も暇で暇でしょうがなくってな。暫く狐について行こうかと」
「変態は塵になるべきだと、己(おれ)は思うんだ」
「塵にすんなってのな!? ってか変態じゃねえ!」
全く五月蠅い奴である。
「死ねばいいのに」
「大妖怪天狗は九尾の狐の黒さを知った」
「己(おれ)の毛は白銀だ」
「腹の話だってのな」
「腹も白銀だ。他の毛より柔らかいぞ。天狗には死んでも触らせないがな」
「酷いよこの狐」
何だかんだ言って楽しい道中であった。
「で、天狗よ。己(おれ)の旅についてくるってことは人里に下りるってことなんだが、お前さん大丈夫なのかね」
「人化はこないだ出来るようになったのな」
「ほほう、見せてみい」
まあ、天狗は己(おれ)と違って元の姿から人間に近いから、人間の姿取るだけならそこまで苦労しないであろ。
大妖怪になるまで全く人化出来なかったコイツは、実はあんまり妖術の才能ないのである。
して、ドロンと如何にもな煙に包まれて姿を現したるは――――
「何でお前さん女を目指したんね? 明らかにおかしなことになっとるぞ」
――――鬼より筋肉質な、丸っこい、四等身の、人間の女っぽい何かであった。
女であろうと判断できたのは、胸部がやたらと盛り上がっているからであったり。
うむ、間違いなく失敗である。
「どうだ、行けるか?」
「いけねえよ。間違いなく失敗だよ。人里降りたらその瞬間退魔師呼ばれるくらいには化け物だよ」
「なん、だと!?」
どうやらこの天狗、相当に自信があったようで。
しかし、どこからどう見ても普通の人間には見えませんで。
良くて二点、悪くて零点である。最高百点。
間違っても人間達は同族だとは思ってくれないであろう。
ちなみに、俺の人化の術は当然百点。変態天狗とはわけが違う。
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