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「なあ、ところで狐」
「あん?」
何か天狗が話しかけてきやがった。
『へんたいてんぐのくせになまいきだ! せいばいしてやる!』
冗談だが。
「狐の足元のそれ、なんだってのな?」
「それ?」
足元を見遣る。
何か赤い光を放つ変な模様があった。
「んん?」
目をこする。
そしてもう一度足元を見遣る。
やっぱり何か赤い光を放つ変な模様があった。
直径、齢十程度の子供の背丈ほど。
まーる描いてまーる描いてホイッ。綺麗な二重円の中に直線やら曲線やら三角形やら変態天狗やら何やら、グチャグチャ書き込まれてやがる。ついでにゆっくり右回転。パッと見ちょっと派手めな菊の紋みてえだが、少し見ればなんか大分違う。
というか段々光の量が増してないか、コイツ。
なーんぞこれ。
「ふむ、分からん」
「え、狐がやってるんじゃないのか?」
「ああ、己(おれ)にも何なのか分からん」
二人して首を傾げる羽目になったとかなってないとか。
うむ、二人とも非常に冷静である。むしろこの程度の事で取り乱すようでは大妖怪になるまで生きてられんが。
とりあえず軽く走ってみる。
変わらず足元についてきた。逃げることは出来ないらしい。
次、人型のまま尻尾を出して地面に叩きつけてみる。
地面は抉れたがこの変なのには変わりがなかった。変態天狗っぽい部分を狙ったんだが、残念。
さて、困った。これはどうしたらいいものか。
逃げるのも無理、壊すのも無理。
天狗に捕まって空に逃げてもこの変なのが俺の足の裏についてくるようにして一緒に空中に上ってきやがったからダメ。
問題はこれが危険なものかなんだが、まあ己(おれ)ぁ大妖怪。ちょっとやそっとじゃ傷一つつかねーぜ。
…………なんか光どんどん増してるし、とりあえず待つか。
「難儀だなぁ、己(おれ)」
「自分で言うことじゃないってのな」
――――なんて会話が、俺の天狗との最後の言葉になった。
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