記憶の旅路

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「貴方はどうして、旅をしているの?」――そう、少女が訊いた。 「分からない、ただ大切な筈の何かを無くしてしまったから……僕はそれを取り戻さなくちゃいけないんだ」  名の知らない鳥が、森の何処かで鳴いているのが聞こえてくる。 「貴女は何故、旅をしているのですか?」――そう、少年は訊いた。 「大切な、とても大切な私の一部を取り戻さなくちゃいけないの。どれ程大切かは分からない、でもそれは絶対に……無くてはならないものだから」  少年は再び少女に問う。 「諦めそうになったことは無かったの?」  少女は小さく、首を横に振った。 「ありません。もしも諦めてしまったら、私はこの先、一生後悔する事になるから」  少女は少年に問う。 「貴方は、諦めそうになったことは無かったの?」  少年もまた、小さく首を左右に振った。 「ありません。諦めてしまったら僕は、絶対に、自分自身を許せなくなってしまうから」  互いが互いの言葉を噛み締めるように、沈黙の帳が落ちる。
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