美月の去った後

2/4
前へ
/265ページ
次へ
「お人が悪うございますよ信長兄上…」 そう信長に言ったのは二人の剣術の稽古を見て居た次男の信勝。 齢15になる、美月と信長の弟だ。 母親似の優しい顔立ちで、真面目で真っ直ぐな性格。 「何がじゃ…」 「魔王の人格等と、さも二重人格を装って居られるではございませぬか…」 「良いではないか。面白かろう」 「姉上だけです…兄上を二重人格だと思われて居られるのは…」 「騙していることに心がお痛みになられませんか…」 呆れた顔をしている信勝は信長を説得するようにものを言う。 「…そりゃあ…少しは…だけどな…」 「今さら美月に言ったって怒られるだけだろ…」 「このまんまで良いじゃねぇか」 「父上も兄上に何か言って下さい」 「何かと言われても…わしが悪い分けではない」 「勘違いして居る美月にわしが言ったとて…わしが美月に怒られるだけじゃ」 「美月を怒らせでもして口を利いてもらえなんだら悲しい…」 「お、忘れて居ったわ、勝家と将棋の勝負をすると約束をしておった!」 「兄弟仲良うせいよ。そなたらの傍に居るお市が悲しむ故な」 父の信秀に進言するように言うが、そそくさと信秀は二人にそう言って逃げて行った。 「……」 「……」 そう言われてしまい、無言で信長と信勝は顔を見合せてお市を見る。 「喧嘩は成りません信長兄上、信勝兄上」 「それより、姉上は出掛けてしまわれる故、私と遊んで下さりませ」 そう二人に言うのは美月、信長、信勝の妹のお市。 ぱっちりとした愛らしい瞳で、甘え上手。 齢12になるしっかりした性格。 「俺はやだぜ…信勝に遊んでもらえお市…」 「何でわたしが女子と遊ばねば成らぬのです…」 「毬で遊ぶなど嫌ですよ。兄上が遊んであげて下さりませ」 「俺だって毬なんかで遊びたくねぇよ…」 「そなたが遊んでやれ信勝。これは兄である信長の命令ぞ。利けぬとは言うまいな」 信長と信勝はお互いに市と遊びたくない為に擦り合っていたが、調子と言う立場を信長は利用したのだ。
/265ページ

最初のコメントを投稿しよう!

69人が本棚に入れています
本棚に追加