2-1彼女の場合

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街に出た。とりあえず行きつけの百貨店に入って、ブランド品を物色してみているけど、気持ちが晴れるはずもない。 コート、ブーツ、スカート、手袋、コスメも色々見て回って、試して、気に入ったものは買う。値札は見ない。 「お客さまお似合いですよ」 どこの店に入ってもそういう決まり文句をつける店員たちは内心、クリスマスに三十路の女が一人でこんな高い商品を買いあさっているのだから、なにか訳ありに思ってるに違いないんだ。 店の中にはカップルはもちろん、男性一人のお客も見える。プレゼント用ですかと尋ねるまでもなく、彼らには帰れば待っている女がいる。 私はそんな横で自分の服を選んでいる。着飾ったところで、誰も私の姿を褒めてくれる人なんていないのに。 「お姉さん、その服はあんまりお勧めしないよ」 私が朱色と黒のコートを手にとって眺めていると、横から声がした。失礼な店員もいるものだと思って振り向くと、そこには学生服を着たショートヘアの女の子が立って、コートを覗き込んでいた。 「な、なによ」 私は驚いて後ろに一歩のけぞると、女の子のほうが驚いてごめんなさいと目を丸くした。 「ご、ごめんなさい。さっきそれと同じコートを買っていった人がね、店で着替えてそのまま出てったの。すぐ近くで彼氏と待ち合わせしてたみたいなんだけど、その派手なコート見た彼氏が明らかに焦った顔してたからさ。お姉さんもデートとかに着るなら、違うのにした方がいいと思って」
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