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言われてみると朱色の生地に首元手首、すそまで黒いラメのかかったファーが着いているこのコートは派手な気がしてきた。少なくともクリスマスに着るのは違う。これじゃ趣味の悪いサンタのコスプレだ。
「言われてみるとそうかも。ありがと。これはやめるわ」
「良かった。でもやっぱりごめんなさい。急に話しかけたりしたらびっくりするよね」
かわいいらしい子だと思った。目がくっきりとしていて口が大きくて、苦笑する表情にも愛嬌がある。こんな子クリスマスには真っ先に男子同士が取り合いをしそうなものなのに。
「ううん、いいのよ。それよりあなたひとり?高校生が普通こんな高いお店に用事なんてないでしょ?」
「そうなんだけどね。お父さんにサプライズプレゼントを買いに来たの。そしたら意外と時間余っちゃって。今日クリスマスでしょ?その辺にたくさんカップルいるもんだから、観察してたの。みんなどんな夜を過ごしてるんだろうって」
「えらいのね、お父さん大事なんだ。それにしても、あなたくらい可愛ければお父さんを放っておいて一緒に過ごしたい人、いそうに思うけど」
「いたよ、誘ってくれた人はね。でも今年のクリスマスはお父さん優先って決めたの。毎年毎年プレゼントくれるんだもん。今年からはお返ししようって。内緒でバイトもしてお金貯めたんだよ。だから今日も友だちと出かけるってウソついて来ちゃった」
「素敵だし、羨ましいわ。素敵なお父さん。私のお父さんなんて、仕事ばっかりの人だったから」
心からそう思う。私がどれだけ思ったって、父は全く私のことなんて見てくれなかった。
「お姉さんは?彼を待ってるの?」
「ないない、今日は憂さ晴らしに来てるの。父だけじゃなく、夫も仕事大好きな人だから」
こんな女の子に、旦那は違う女と楽しくクリスマスを満喫してるわなんて、話せない。
「こんな美人の奥さんほっとくなんてひどい旦那さんだね」
見ず知らずの旦那のことを本気でいらだってくれているこの女の子がどこか愛おしい。私もこれくらい素直でいれたなら、父もいい娘として私を見てくれたのかな。
「私のお父さんもあなたのお父さんくらい、素敵な人ならよかったわ」
「何か、あったの?」
「あなたくらいの歳からずっと会ってないの。もう20年近く」
昔の自分に語りかけるように、私は自然と目の前の彼女に父のことを話し始めた。
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