1-1彼女の場合

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帰宅すると、テーブルの上に白い封筒が置いてあった。 『メリークリスマス。ごめん、今年も急に仕事が入った。これで好きなもの買って、楽しんで』 封筒には横書きで、出来るだけ丁寧に、気を遣ったふりで書いたであろう夫のメッセージが添えられている。 なかにはそれなりに厚みのある札束。去年は10万だった。その前は5万から7万くらいだったかな。あえて数えないけど、今年は倍近い気がする。 じゃあ来年は50万でもポンとここに置いておくつもりなんだろうかと、コートを脱いで腰かけ、封筒をじっと見つめながら思った。 でも黙って受け取って、翌日にはこれを買った、あれを食べたと報告して、彼の前で嬉しくもないのに笑顔を作るんだ。 ここ何年もクリスマスに仕事だなんて、ウソだってわかってるのに。
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