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オレンジの壁。濃ゆい紺色の空には落書きのような月と太陽が二ヒニヒ笑っている。ふと、太陽の口から血がたれ、月のてっぺんから血が漏れ出した。ウィッチが小さな悲鳴を上げると、ヴァンパイアが肩をさすった。
「大丈夫。月も太陽もみためは恐ろしいけど、何もしないよ。なれるまで時間がかかりそうだけど・・・」
「そう・・・・ねぇ、ヴァンパイア?さっき、死んだ理由を教えてくれなかったよね?今、教えてくれる?」
微笑んでいた顔がパッと不安の表情に変わり、しめった砂のような髪が悲しく見えた。
「・・・・どうしてもかい?」
「あたしの死因はさっきホムンクルスが言って、聞いちゃってるんでしょう?なら教えてよ。」
雨のどしゃぶりで、全身ずぶぬれになったような表情で、歩幅を縮めながらぶつぶつしゃべりだした。シュタインは2人の遠く離れたうしろで、むらがってくる猫の相手をしようとさらにゆっくり歩いている。
「僕はね、」
ほんとうに小さな声でつむがれるようにしゃべりだした。
「自殺したんだ。」
「えッ」
ウィッチはヴァンパイアを覗き込んだ。少し照れくさく笑っている。
「最後にね。血をいっぱい見たんだ。自分のお腹の血。痛かった。たぶん、血を見たからヴァンパイアになったのかもね。」
裏地が深紅色の黒いマントがゆれ、美しくヴァンパイアの頭上をかざった。ウィッチはマントを見つめている。
「そ・・・・・っか・・・・・悲しかったんだね、ヴァンパイア。」
「たぶん、ね。いじめられてたんだ、僕・・・・お母さんも、理解してくれなかった。お父さんはもう死んでいたし。」
「私も、お父さんが死んでたわ。」
今度はヴァンパイアが顔を上げた。
「だから、ハロウィンなんて嫌い。死んだ人が生き返ってパレードするなんて、うそっぱちじゃない。」
そうかもね、と言いそうな顔で頭を縦にふるヴァンパイアに、ウィッチはほほえんだ。
「・・・・僕には弟と妹がたくさんいたんだ。その子達は僕のことわかってくれた。だけど、我慢できなくなったんだ・・・・本気で、死にたいって思っちゃって・・・。」
「大丈夫よ、ヴァンパイア。一緒に生き返りましょ。そして、弟と妹に、めいいっぱい優しくしてあげるの。私も、その子達に会いたいわ。」
「・・・・・本当?」
「もっちろん!!」
ウィッチの輝かしい笑みに、ヴァンパイアは頬を赤くして惚れ込んでしまった。
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