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街を半分に裂いた東側だから、まだ暗いうちに目覚ましのベルが鳴る。
ベルの音が先か陽気なキンキン声が先だったのか、夢から覚めた柳小豆は夜風をはらんだカーテンを開けた。
鉄条網の壁の向こう。小豆(あず)に注がれた笑顔がある。
「ほら、私が起こさないと起きない」
別に行き来出来ない訳ではない。行政上、他国の管理下にある高層マンションの2階で女の子が叫んでいるだけ。
〈毎朝うるさいんだよ! 東の朝はこっちの真夜中だ!〉
1階の親父が怒鳴るのはもっともで、親父のいるマンションは西の行政管理下。
寝ぼけ眼の小豆の東地区とは、生活時間に2時間のズレがある。
「小豆、洗濯した?」
「してない」
2人の暗号である。
ビュンと未明の風が、小豆と詩音(しおん)の髪を揺らした。
柳小豆は痩せた手で網戸を閉め、黒い靴下をカーペットに尻をつけてはいた。
チラリと壁の時計を確認すると、朝の4時半である。
「あいつ(しおん)何時に起きたのさ」
軽やかな足取りで玄関に向かう、小豆の普段どうりの朝である。
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