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「別れましょう。」
つい一時間前のこの言葉が耳から離れない。
青年は車を走らせながら何度も過去の自分を振り返っていた。
何が善くて何が悪かったのか、振り返る度に後悔しか見当たらない。
そう。自分が全てわるいんだ。
自分に何度も言い聞かせつつ、何とか納得しようとしていた。
だが彼には受け止める事が出来ない。
頭で解っていても心では納得出来ずにいるまま、車を走らせるこの青年。
名前は中原翔(なかはらしょう)26歳。
イベント会社に勤め、今日は大晦日。仕事を終え、婚約をしていた彼女を迎えにいた先で別れを告げられたのは一時間前の事だ。
突然の別れ。
確かに薄々は感じていた。将来のことを曖昧な返事で彼女に答えてきた翔だからこそ判ること。
だが、翔にとっては急すぎた。このまま何もなく勝手に結婚まで行くと思っていた。
男はみんなこうなのだろうか。
何とか立ち直ろうとする翔は、ラジオから聞こえてきた音楽で溜めていた熱いものが込み上げることに気付く。
(久しぶりだな。声を出して泣いたのなんて…。もういーや。今日は飲もう。)
そう思った頃には家に着いていた。
シャワーを浴び、泣いた事でしわくちゃになった顔を洗う。
今までスーツを着ていたからだろうか、私服が妙に落ち着く。
タクシーを呼び、街へと出ていく翔。
タクシーから外を見ると、手を繋いで歩くカップルばかりが目につく。
(ふざけるな!)
誰に当たることも出来ない翔はイライラばかりが積る。
街に着き、タクシーに料金を支払うと、その場で煙草に火をつける。
何も考えずに出てきたからだろう。行く宛のない翔は、取り敢えずいつも行くバーに飲みに行くことにした。
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