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「梨乃ちゃん。」
誰かに声を掛けられ、梨乃は振り向く。そこには、夜着を着た沖田がいた。
「こんな時間まで、何してたの?」
「仕事だよ。仕事。」
沖田はへえ、と感嘆の声を漏らすと、梨乃の頭を撫でた。
「偉いね。梨乃ちゃんは。僕なんかと大違い。」
「分かってるんなら隊士に稽古位つけてよ……。」
梨乃は沖田に稽古を押し付けられている事を咎めた。沖田はカラカラと笑う。
「でも、監察方の事だから明日から暫く昼間はいないんでしょ?稽古位ならやろうかな?」
「程々にね?」
梨乃は沖田に稽古をつけられた平隊士の酷い有り様を思い出した。やっぱり自分がやった方が良いかも知れない。
「嫌だなあ、僕は実戦での厳しさを教えて上げてるだけだよ。あ、それとこれ。」
沖田が持っていたのは、梨乃の夜着だった。梨乃は目を見開く。
「…………もしかして、私の箪笥から?」
「そうだよ?どうしたの?顔真っ青だよ。」
いくら沖田でも秩序がないでは無いか。梨乃は沖田を睨んだ。
「馬鹿総司!」
梨乃は怒って足音を立てて風呂場へ向かう。
「あーあ、……一君が入ってるかも知れないのに……。」
沖田は肝心な事を梨乃に伝えていなかった。無論、わざとだ。
「………ま、いっか。」
実に楽観的である。
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