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「馬鹿総司馬鹿総司……」
梨乃は恨めしそうにぶつぶつと呟きながら風呂場を目指していた。
「ああ、もう二度と稽古の代わりしてやんない!」
そう独りでに誓う梨乃だが、果たしていつまで覚えているかが問題である。
「お、梨乃ちゃん、何怒ってんだ?」
縁側に座っていた永倉が梨乃に声を掛ける。梨乃は永倉を意味なく睨み付けた。永倉は慌てふためく。
「お、俺何かしたっけ?あ、晩飯時の事?」
しかし梨乃は無言で永倉を睨み続ける。
「な、なあ梨乃ちゃん。なんか言ってくれよ。怖いんだって……。」
やがて梨乃ははあ、とため息をつくと、永倉から目線を外した。
「新八さん睨んでたら苛々してるの解消出来るかな、と思ったんだけど、やっぱり無理みたい。」
梨乃は不服そうに唇を尖らせ、また廊下を歩く。永倉がきょとんとした表情で見ていたが、今の梨乃には何処吹く風だ。
「大体総司が悪いんでしょ。ふつう女の子の箪笥から服持ち出すかな?信じられない!」
とてつもなく憤慨している梨乃。平隊士が影から怯えて見ていた事を知らない。
「副長も怖いが、監察方の水原さんも怖い。決して怒らせるな。」
とまことしやかに囁かれている事など、梨乃は思いもしないだろう。知らないから実際、
「どうやって懲らしめようかしら……。逆さづり?いや、釜茹で?……どっちも?」
等と不遜に呟いているのだ。これでは土方が「鬼」なら、梨乃は「閻魔大王」だ。
「馬鹿総司…。覚えときなさいよ……。」
また一つ「水原梨乃の「鬼」疑惑」が、隊士達の間で囁かれるのだろう。
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