82人が本棚に入れています
本棚に追加
「そんな顔せんでもおんしは悪くないぜよ!」
その様子を見兼ねた坂本は笑いを含みながら梨乃に言う。
だが梨乃はそれに促される訳でもなく、更に唇を噛み締める力を強くした。
坂本はその様子を見て苦渋に満ちた顔で困った様に笑みを浮かべる。
彼は女の扱いが大の苦手で、今だって梨乃に何と声を掛ければ良いのだろう、と常に考えているのだ。
正直に言えば、坂本は今すぐこの場を去りたい。
それは叶わずとも、せめて梨乃から何か話してはくれないだろうか、と坂本は切に願った。
ーーーーやがてそれに答えるように、梨乃は口を開く。
「もう何が何だか……よく分かりません……私、何者ですか…?」
渇いた口と喉が貼り付くような違和感に耐えて言葉を紡いだ梨乃は、刹那自分の発言に後悔した。
ーーーー何故坂本は自分をこんな場所に連れてきてまで話したいのか。
ーーーー何故彼女自身の記憶を紐解く様な問いばかりを投げ掛けるのか。
よく考えてみれば、坂本は一発で教える気は、無い。
それに気づくのが、彼女は少し遅いのかも知れない。やはり憶測は自身を空回りさせるだけなのだ。
最初のコメントを投稿しよう!