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「知りたいんか…?」
だが坂本は真っ向から断りはしなかった。
思わず梨乃は目を丸くする。
坂本の瞳は真剣そのもの。下手をすれば心の中ぐらい、簡単に暴かれてしまうのでは。そんな光を持っていた。
別段後ろめたい事などしていない梨乃。だが、彼の余りの真剣さに、思わず目を逸らす。
ーーーーこの類いの瞳が、梨乃は好きでは無いのだ。
「はい……」
意識したわけではないのに、梨乃の口からは自然に敬語が出る。
坂本は黙りこくってはいるが、目線は梨乃から一寸も離れない。
その目線に、梨乃の首筋を心地の悪い汗が流れた。
ーーー早く、静寂を破らねば。
頭では分かっている。だが、口を開いたところで今の梨乃は何を語るのであろうか。
会話の主導権は全て、坂本が握っていると言うのに。
ーーそんな梨乃の心を読んだように、坂本は口を開いた。
「……おんしは、新選組を捨てる覚悟、あるかえ?……無いんじゃったら、この話はなかったことにする」
ーーーーー狡い
梨乃はさ迷っていた視線を坂本に戻すと、キッと坂本を睨み付けた。
「そんな……!私がどう答えるかなんて、わかってるでしょっ……!!」
叫びにならない叫びをあげ、梨乃は吼える。
ーーーー坂本は、最初からこうするつもりだった。
梨乃の頭は瞬時に解し、彼女の心は溶岩の様にドロリとした怒りを溢れさせた。
「最初から、教えるつもりなんて……っ…!」
「わしにはあった」
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