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遮るように言った坂本の言葉に、梨乃は硬直した。
坂本は一つ咳払いをし、胡座をかいていた足を正座に変える。
そして目を見開いて自分を見つめる梨乃に気まずそうに目線をやると、これまた気まずそうに言葉を紡ぎ始めた。
「……わしには、おんしに過去を話してしもうた後が明るいもんとは思えんじゃき……」
梨乃の心には驚きという感情すらない。目は見開いているが、それ相応の感情が見つからないのだ。
坂本は一旦言葉を区切った後、再び気まずそうに口を開く。
「……おんしは何があろうと新選組に居るべき人間。自分の過去なんぞ、気にせんのが良いぜよ…」
出来る限り梨乃を救うような言の葉を選んだ坂本。ありったけの知識を総動員させ、梨乃を慰めるように言った。
ーーーー当の梨乃は俯いていて顔は見えない。敢えて坂本に自分の顔を見せないようにしているのだ。
だが、彼女が今どんな顔をしているのかは、手のひらでギュッと掴んだ袷が物語っている。
梨乃の肩は少し震えていて、泣いているようにも見えるし、怒っているようにも見える。
だがきっと悔しさを感じているのは共通だろう。……一番悩み苦しんでいるのは、彼女なのだから。
坂本には掛けてやれる言葉すら見当たらない。それどころかどうすれば良いのかも彼には分からないのだ。
ただ一つ言えるのは、今梨乃に何を言っても傷を抉るだけだと言うこと。
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