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「……必要とか必要じゃないとか…訳分かんない…」
絞り出したような梨乃の声に、坂本は苦虫を噛み潰した様な顔になる。
ほとんど嗚咽に近い梨乃の言葉は、少なからず何があったのかは容易に想像出来た。
「……新選組で、喧嘩でもしたんか?」
坂本が問うと、梨乃は首を横に振る。
「そんなんじゃ、ない……」
少なくとも土方との件を、梨乃は喧嘩だと認めたくはなかった。
端から見れば意地の張り合いでしか無いのだが、梨乃はその一言で済ませたくはない。
しかしそんなこと露知らずな坂本。梨乃の返答に、ますます困った様な顔をする。
「うーん……」
何とか言ってやりたいのだが、何にも知らない故に坂本には掛ける言葉などない。
元より、梨乃は慰めなど欲してないのだが。
ーーーーー暫く俯いていた梨乃。
だが、急に顔をあげると、窓枠の障子を勢いよく開けた。
「……!!」
そして目を見張り、体を強張らせる。
「どうした?」
その異変に気づいた坂本が梨乃の後ろから障子の向こうを見下ろすと
「厄介なことになっちょるなあ……」
ーーー浅葱色の羽織に、眉間に皺を寄せた。
あれは、沖田だろうか。辺りをキョロキョロと見渡し、誰かを探しているよう。
自ずと自分を探しているのだ、と分かった梨乃は、唾をごくりと飲んで沖田を見下ろす。
ーー土方が、命令したのだ。
梨乃の背中を、冷や汗が伝った。
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