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沖田がいるということは、きっと他の幹部も市中に散らばっているはず。
恐らく梨乃の通りそうな道など看破されているだろう。
八方塞がりな梨乃。今更ながら屯所を黙って出てきた事をひどく後悔する。
「どうしよう……」
無意識に梨乃が呟くと、坂本は自分の羽織を彼女に着せ、編笠を頭に被せた。
「羽織、貸してやるき、それ着て逃げるんじゃお」
梨乃は坂本の羽織を着たまま立ち尽くす。体に似合わぬ大きなそれは、不自然にブカブカだ。
ーーーだが、梨乃はこうする他成す術ない。
「ありがとう、才谷さん」
しっかりと頷いた坂本に一礼すると、部屋を飛び出した。
ーーーー梨乃の居なくなった部屋で、坂本は溜め息を吐く。
喧嘩して屯所を飛び出しただけで、大掛かりな捜索をする新選組に、些かの戸惑いと疲れを感じたのだ。
「おなごっちゅうのは難しいぜよ……」
“女”であるから新選組は梨乃を大切にするのか、はたまた誰かの“恋仲”であるから梨乃を大切にするのか………。
坂本の頭に浮かんだのは、土方の顔だった。
“鬼”の副長として名高い土方。容姿端麗だが、坂本の見る限り、あれが女に固執するようには見えない。
だがここまでして梨乃を探すと決めたのは、恐らく土方だろう。
そんな事を考えながら、坂本は外で翻る浅葱色に、目を細めたーーーー。
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