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「ケホッケホッ……!」
部屋を出た沖田。彼の痰を含まない空咳が、屯所の廊下に響く。
ーーーー沖田は、気づいていた。
池田屋騒動の前から、ずっと続いている咳と熱、そして食欲不振に。
…………そして、それらの症状が単なる風邪のせいではないことに。
梨乃には、一応話してはおいたのだ。
『自分の体が、おかしい』、と。
だが沖田は薄々勘づいてきた。この不可解な症状の名前にーーーーー。
『労咳』なのだと。
それは不治の病。助かることが無い、死の病。
「……なんで、僕なんだろう」
神は理不尽だ、と沖田は何度夜が訪れる度に悔しさに悶えただろう。
何度自分の体を呪わしく思っただろう。
ーーーー刀に生きた。なのに刀で死ねないなんてーーー。
沖田は近ごろ痩せた自分の体を抱くようにして壁にもたれた。
雲に隠れた月が、まるで沖田自身の様で、彼は空しく笑う。
「僕が梨乃ちゃん……君と一緒に居られるのは、あとどれくらいだろうね…?」
出ない答えを問う事程虚しい事はない。
沖田は、ゆっくりと目を閉じたーーーー。
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