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藤堂はうんともすんとも言えなくなり、板敷の床に視線を落とす。
ーーーー“落ちた”、な。
伊東はほくそ笑む唇を湯飲みで隠し、自身も至極残念で堪らない、と言う風に肩を落として見せた。
そんな伊東の演技など気付きもしない藤堂。彼の純粋な心は、こういう時には仇となってしまう。
ーーーー何時の間にか、外は薄墨色に変わり、部屋の中も薄暗くなった。
「おや、大分時間がたった様だね」
伊東は立ち上がり、部屋の隅の行灯に火を灯す。
か細い橙色の明かりは、二人の横顔をどこか陰鬱に照らし出した。
藤堂は相変わらず視線を落として落ち込んでおり、伊東はそんな藤堂をみてどこか妖しげに微笑む。
「そんなに気落ちしなくとも、僕はまだ新選組への入隊を拒んだ訳では無いさ」
ーーーただ、どれ程自分が必要とされているのか、試したいだけ。
伊東はそんな言葉を茶と共に飲み下すと、ニコリと笑う。
藤堂はたちまち嬉しそうな顔になると、ガバッと頭を下げた。
「お願い致します!!」
「………若いねえ」
苦笑いする伊東。
ーーーーーその笑みのしたには、黒い心が渦巻いていたーーーー。
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