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「ーーー歳、やはり駄目だったそうだよ」
二、三日後、近藤の元には先に江戸に出立した藤堂からの報告の文が届いた。
「伊東の事か?……だろうな」
それに驚きもせずに近藤を見つめる土方。
彼にはこの結果が目に見えていたらしい。
「歳、お前は知っていたのか?」
すっとんきょうな声を上げた近藤。土方はハア、とため息を吐いて筆を置くと、眉間に深い皺を寄せる。
「……あんたの話を聞く限り、その伊東ってのは弁舌に優れた思想家なんだろ?……そんな大した奴が、こんな浪士の寄せ集めみてぇな所に簡単に入ってくれるわけねぇだろ」
「むむっ……それは見落としていた…」
土方の意見で漸く気づかされた近藤。顎に手を当て、考えるような素振りを見せる。
土方はまた深いため息を吐くと、遠くを見つめた。
ーーー差し迫った問題。解決の糸口はどこにも見えず、正に立ち往生。
頭の切れる土方でも、これだけはどうしようもない。
せめて伊東が頷いてくれれば良いのだが、生憎肝心の伊東はそんな素振りすら見せず。
これだから頭の良い奴は、と土方は悪態をついた。
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