方舟に乗るは

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島原 「山南はん、なんや浮かへん顔しとらはるけど……どないしました?」 先程から座敷の一点を見つめてぼんやりとしている山南に、天神 明里が心配そうに声を掛けた。 「……あぁ、少し考え事を」 そう明里に振り返った山南の瞳は虚ろ。猪口の酒も全然減っていない。 明里は紅を引いた瞼を伏せると、そう、と小さく呟く。 ーーーかれこれ長い間恋仲をやっている二人だが、日に日に山南の表情は暗くなっているのは一目瞭然。 こういう態度の時は、何か大きな物を抱えているのが山南。 明里もまたそれを分かっていて、だからこそ彼が心配なのだ。 「………新選組の方で、何かあったんやないどすの?……うちには、話せん事ですか?」 「……そうですね、明里には早い話です」 明里の優しい言葉にも惑わされぬ山南。 彼の考え事とは、近藤と土方のことだったーーーー。 此れと言ったいさかいがあった訳では無い。むしろ穏やかである。……“表面上”は、だが。 最近近藤が山南を良く思っていないのは確かで、それは山南には容易に図れた。 例えば伊東の入隊。今の段階では結果は出ていないが、伊東もじきにやって来るだろう。 そうすることで、近藤は山南の居場所を確実に無くそうとしていた。 ……勿論山南にそれが分からない筈もなく。
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