方舟に乗るは

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彼は自分自身の観察力の鋭さを恨むこととなった。 それと同時に湧き出る感情は、新選組への失望。 ーーーーこれが、今まで信じて付いてきた新選組なのか。 ーーーーーこれが、今まで夢見てきた結果なのか。 失望と疑問が混ざりあう痼を胸に抱えたまま、山南は宛もなく明里を訪ねて来たのだ。 山南の心を癒してくれるのは、今や明里ただ一人。 だからこそ明里には、なにも知らずに居て欲しかった。 ーーーー部外者の存在は、存外助かるもので。 これが梨乃であれば、山南の心は癒されはされなかっただろう。 なぜならば、彼女は部外者ではないから。 それと同時に、梨乃は土方のお気に入りのような者であるから。 「……なんやよう分からへんけど、うちはいつでも山南さんの味方どす。…いつでも待っとりますさかい、いつでも来てくださいな」 ーーーー明里とて馬鹿ではない。山南の事を詮索するのは良くないと知っている。 自分は部外者であるから山南と恋仲でいられるのだと学んでいるからだ。 「ありがとう」 ………山南は少しだけ頬を緩ませた。
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