方舟に乗るは

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甘味処 壬生から少し離れた三条大橋沿い。 ひっそりと佇む甘味処から、聞いたことのある声が聞こえてきた。 「あー、左ノ!俺の餡蜜食わねえで自分の餡蜜食えよ!」 「食ったもの勝ちだ」 「…………いや、なんというか」 言わずもがな分かっただろう。上から永倉、原田、梨乃である。 このあまり見ない三人組、何故甘味処にいるのかと言うと…。 「なあ、最近……何かギスギスしてねえか?……屯所ん中」 「……確かにな」 ……余りにも屯所の中が殺伐とし過ぎていて、非番なのをいいことに逃げるようにここに来たのだ。 「……やっぱり、伊東とか言う奴の入隊騒動があるから…?」 「だろうな」 今まで何度か騒ぎはあったが、今回は並みではない。 大幹部は勿論、何故か平隊士にまで殺伐の波が襲って来ているのだから。 故に永倉達が稽古の時に気まずいのは言うまでも無い。 梨乃は汁粉の椀に浮く丸餅を箸でつつき、また静かに口を開いた。 「…………山南さんが、一番まいってるんだよね…?」
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