時は夢にて

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「あ、ごめん……。安眠妨害した?」 梨乃が苦々しい表情をすると、原田は首を横に振って否定した。 「いいや、心配して眠れなかったんだよ。」 さりげない原田の優しさに、梨乃の心を巣食っていた悩みが嘘の様に消える。仲間とは、こういう事かも知れない。 「そっか……。ありがと。」 ガラッ 「梨乃君?いるか?」 二人が入り口を見ると、快活に笑う近藤がいた。梨乃の頬が思わず緩む。近藤には、人を笑顔にさせる何かがあるのかもしれない。 「近藤さん!」 梨乃は自分の横に座るように手招きをする。近藤は頷いて、梨乃の差し出した座蒲団に座ると、心配そうに梨乃をみた。 「今日から長州の所に潜入だと歳から聞いてな…。無事に帰って来てくれ。俺は待ってるぞ。」 近藤の目は潤み、まるで嫁に行く娘を送り出す父のようだ。原田は苦笑いを浮かべ、梨乃は面食らった様な顔をする。 「おいおい近藤さん、梨乃は少し偵察に行くだけだ。んなに目え潤ませなくても良いだろ?」 「いや、しかしだな……!」 近藤は今にも泣きそうな勢いだ。人が良いのは近藤の取り柄だが、逆にそれが仇となっているのもまた事実だ。梨乃は近藤を宥める様に言った。 「大丈夫ですよ、近藤さん。私、そんなに簡単に命は落としません。ちゃんと貰うべき情報貰ったら、帰って来ますよ。」 近藤はその言葉を聞いて「そうか……」と安堵の声を漏らした。しかしまた不安要素を見つけたのか、眉間に皺を寄せる。 「だが昼飯の時に梨乃君が居ないとなると、寂しいな……。」
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