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「ひぇあ!?」
驚きと恐怖のあまり言葉にならない声を上げる梨乃。
しかし当の土方は別段怒っている様子もなく、そのまま梨乃の隣に腰を下ろし、彼女の手から徳利と猪口を受けとる。
梨乃はぼんやりと何を考えるでもなくその動作を見つめていた。
その視線に気づいたのだろう。土方は梨乃をチラリと見ると、彼女に徳利を突き出す。
「ん」
「……え?」
目の前の徳利と土方を交互に見つめる梨乃。土方の言いたいことなどまるで分かっていない。
そうだ、梨乃は鈍いのだ。
土方はがしがしと頭を掻き、視線を他所に外しながら言った。
「酒……注げ」
………実に上から目線。梨乃はムッとしながらも徳利を受け取り、猪口へと口を傾ける。
コポコポと清らかな音をたてながら注がれる酒は、水晶の様に透明で美しい。
辺りに立つ甘い香り。土方は一気に酒を煽った。
「酔っぱらっちゃうよ?只でさえお酒弱いのに……」
「人の事が言えたもんか?………お前も飲んでみろ」
下戸な梨乃にわざと酒を飲ませようとする土方。断ろうにも断れない梨乃。
「………分かった」
梨乃は渋々土方から猪口を受けとると、並々と注がれていた酒を一気に飲み干した。
「ケホッケホッ……!」
喉を過ぎる熱い物に梨乃は思わず咳き込む。
土方はそれを見て愉快そうに喉を鳴らすと、梨乃の持っている猪口にまた酒を注いだ。
「ほら、もういっぺん飲め」
「も、無理……!」
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