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近藤の口からそんな言葉が出るとは思ってもいなかった梨乃は、嬉しさの余り満面の笑みを見せた。
「ちょくちょく暇があれば此処にも顔を見せますし、夕食と朝食の時は居ますから、そんなに言わなくても……。」
「梨乃君は武州で拾った時から、俺の娘の様なものだ。……しかし、梨乃君も立派に育ったものだなあ……!」
「娘…。」
梨乃は父と母の顔を知らない。物心ついた時には、試衛館にいた。だから、育ての親は試衛館の皆だ。
近藤から「梨乃」と言う名前をもらい、土方から「水原」と言う姓を受けた。本当の名前も知らないし、自分が何処の生まれかも知らない。
母親の優しさも、親と言う存在の意味も知らない。一五年間何処か空虚だった梨乃の心が、近藤の言葉で埋まる。
「そうだ!娘だ!だから、俺を父だと思って頼りなさい!」
近藤の笑顔は、梨乃の乾いた心を潤す。梨乃の目から、温かいものが一筋、流れた。
「あれ……?」
手で押さえて見ると、涙だ。何で泣いているか自分でも分からない梨乃は、ただ涙を流す。
「梨乃君、お父さんの所に来なさい!」
泣いている梨乃を見て、近藤は両手を広げる。梨乃は迷わず飛び込んだ。
「………ぐすっ……うわあああん!」
久しぶりに声を上げて泣く。近藤はただ笑顔で見つめ、原田は貰い泣きをしたか、潤んだ目を指で擦った。
本当の父ではないけれども。血は繋がってはないけれども、梨乃にとって近藤は、命の恩人でもあり、「父」なのかもしれない。
ガラッ
「おい、近藤さん!………って、んな!?」
この感動的な場面に入ってきたのは、土方だった。
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