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「次はありませんからね?」
山南は意味深な言葉を残し、廊下を歩いてどこかに行ってしまった。後には微妙な沈黙が残る。
「……。」
先に立ち上がったのは土方だった。蒼白い顔で辺りを見回すと、自室に戻っていった。足音を立てないよう、忍び足で。山南の説教は効果絶大のようだ。
「山南さんには敵わないなぁ……。」
沖田がポツリと呟いたそのとき、誰かが顔を覗かせた。沖田は山南だと思い、居住まいを立て直す。
「総司ぃ?また山南さん怒らせたの?」
顔を覗かせたのは、監察方兼副長補佐の、水原梨乃だった。局長である近藤が、武州で拾ってきた女だ。
「なんだ、梨乃ちゃんか。」
「何?私でがっかりした?」
梨乃は唇を尖らせ、拗ねた素振りを見せる。沖田はそれを否定した。
「いや、違うよ。山南さんかと思っただけ。」
沖田の言葉に、梨乃は「はあ!?」と不満げな声を口にする。
「何それ?私が山南さんにそっくりだって言うの?」
「いや、だから何となく……。」
「馬鹿総司!ばーか、ばーか!」
沖田の言葉も聞かず、梨乃は沖田を罵る。これではまた山南が来てしまうと危惧した沖田は、唇に人差し指を当て、「静かに」といった。
「山南さんが来ちゃうじゃん。」
顔面蒼白な沖田を見て、梨乃は何を悟ったか、軽蔑の眼差しで沖田を見る。
「…まあいいや。ご飯だよ。」
梨乃は沖田に言い残すと、足音を立てて土方の部屋を目指す。途中
「梨乃さん?足音はお静かに。」
という声と、
「すいません!」
という声が聞こえたような気がし、沖田は再び身を震わせると、広間に忍び足で向かった。
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