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「歳三?いる?」
梨乃は副長室の障子に手を掛けた。来るべき土方の返事を待つ。
「ああ、梨乃か。入っていいぞ。」
中から土方の声が聞こえ、梨乃は障子を開ける。文机の前に座り筆を取っている土方だが、まだ顔が蒼い。
「また山南さん怒らせちゃったんだね?歳三?」
梨乃が茶化した様に言うと、土方は肩を跳ね上がらせ、「まあ、なあ…。」と曖昧に濁す。梨乃はため息を一つついた。
「あんまり怒らせないでよね?その尻拭いするの私だし。あの人割りと根に持つ人だからさ。」
「分かってらあ……。」
土方は嫌味っぽく言うと、いつまでも本題を切り出さない梨乃に痺れを切らしたか、
「用件はなんだ。」
と梨乃を急かした。思い出した!と梨乃は手を叩く。
「そうそう!もうご飯だよ。早くしないと新八を平助が五月蝿いよ。歳三のおかず無くなっちゃうかも。」
土方は筆を置いて立ち上がると、梨乃の頭を撫でた。
「ありがとよ。知らせに来てくれて。」
「それが監察方兼副長補佐、水原梨乃の仕事ですから!」
土方は良い心がけだ、と薄く笑い、腕を組んで部屋を出ていく。梨乃も静かに障子を閉め、土方の後に続いた。
ガラッ
「土方さんおせーよ!俺腹へって死にそうだ!」
土方が入ってきて早速文句を言ったのは、藤堂 平助だ。待ちきれんと言わんばかりに、貧乏揺すりをする。
「そりゃあ大変だ。医者にでも行ってこい。」
土方は皮肉を一つ溢し、自分の膳の前に座った。梨乃も膳の前に座る。
「近藤さん!全員揃ったし、音頭とってくれ!」
永倉 新八は箸を持って、食べる準備万端だ。
「うむ。では、今日も一日御苦労だった!」
その音頭を合図に、皆一様に箸を動かす。
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