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「伊達に副長補佐やってませんから。」
その言葉に土方は安心を覚えたのか、固くしていた表情をようやく和らげた。
「暫くの間、長州の奴等が密会してるっつー宿に潜入して欲しいんだ。本当は御用改めでもしたら良いんだろうが……。証拠も揃ってねえのに、片っ端からとっ捕まえる訳にもいかねえだろ?だから……。山崎と二人で、やってくれるか?」
「やってくれるか?」と疑問形で土方は問うだが、了解せざるを得ない事を梨乃は知っている。最近働きづめの監察方を気にかけての物言いだろう。梨乃は頷いた。
「分かった。山崎君と行けば良いんだね?場所教えて?」
「すまねえな。場所は、そこの大通りを出て右に曲がって……。」
一通り場所を教えてもらった梨乃は、忍び服に着替え、屯所を出た。
民家の屋根に登って、「山崎君。」
とただ一言囁くように言うと、ものの三十秒もしない内に、隣に山崎が来る。
「何でしょう?水原君。」
この黒い忍び服を着た男が、もう一人の監察方の山崎 丞。常に冷静沈着な梨乃の部下だ。
「この先の大通りを真っ直ぐ行って突き当たりで右に曲がった所の宿で、長州が会合をしてるらしいの。そこに潜入しろって。」
「それは副長命令ですか?」
山崎は副長の土方を心から尊敬している。いや、崇拝していると言っても過言ではない。
斎藤も中々の副長崇拝だが、山崎も負けず劣らずだ。
「そう。歳三直々の命令よ。行きましょうか。」
「命令とあらば。」
相変わらずだ、と梨乃は複雑な笑みを浮かべた。
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