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「おはよう。姉ちゃん」
我が姉君に朝の挨拶をする――――返ってきたのは無言の静寂だった。
現在、時間は朝の七時。一般人は朝の支度を始める時間だ。
俺はもう高校生になった。姉はもう社会人となっていたろう。目を覚まさなければ、お互い遅刻で大目玉を喰らう。
あれだけ騒がしかったかつての姉は、今ではすっかり変わってしまった。
昔みたいに俺に抱きつき「遊べ!」だなんて駄々をこねたり、不味い料理を振る舞って無理やり俺に食わせたり、目を輝かして意味のよくわからない自分の征服論を語ったり。
最後に姉の顔を見たのは、確か俺が中学に入る前だったと思う。
原因は両親の離婚――――、ではなく。共働きだった両親は、どちらも別の土地へと短期の赴任が命じられ、四年という月日の間、我が家族は住む場所を分けることとなった。
成長期を終えた俺の背丈はとうに記憶の姉を超えていた。それなのにどうしようと、未だに勝てる気がしない。
いや、もう勝ち負けを競うこともない。出来るはずもないというべきか。
姉は、姉だったものは小さな黒い箱に収まって、変わることのないまぶしい笑顔を振りまいている。
俺と一緒に暮らすことになったつい数週間前。姉は――――、この部屋で物言わぬ死体となって発見された。
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