2人が本棚に入れています
本棚に追加
無色透明な頭のまま、私はがむしゃらに走っていた。
体は悲鳴を上げている。
ヒューヒューと休息を訴える肺。わけのわからないBPMで打ち鳴らす心臓。もつれそうになる両足を必死になって回転させる。
酸素が足りない。理解ができない。まだ死にたくない。混乱してぐちゃぐちゃになる脳ミソをよそに、私は隠れ場所を探して走り回っていた。
正直、もう体は限界だ。
生きるために、死なないためにとあふれ出たアドレナリンも、もはやそれをごまかすことが出来なくなっている。
未だ追いつかれてはいないところを考えると、幸い、"アレ"はさほど足が速くないようだ。藁にもすがる思いで、目の端に捉えたプレハブ小屋のドアにかじりつく。信仰心を正月以上へと引き上げて、すがれる全てへ祈りながら、私はゆっくりとノブを回した。
鍵は――――、かかっていない。
どうやら幸運にも、誰かが閉め忘れてくれたらしい。音をたてないようにゆっくりと中に入り込み、私はドアの鍵をしっかり閉めた。
机の影に身をひそめる。心臓の音がうるさい。もはや、息をするのも怖いくらいで、空気を求める体を無視して私は手で口を覆った。
窓を見る。月の光が、大きな影を映し出した。ズルズルと何かが這いずる音がする。うねるように移動するそれは、どこか蛇を思わせた。
怪獣映画が子供のころから好きだった。
ガメラやゴジラがテレビの中で暴れるのを見るたびに、いつか怪獣がこの街に現れたのならば、この手でカメラに収めてやると、笑って父に話したものだ。
今も、その思いはなくなったわけではない。
いつかいつかと言いながら、頭の片隅では起こりえないと思っていた。それが、まさか向こうからやってくるなんて思ってもみなかった。それも、自分の命を狙うものがくるなんて。
最初のコメントを投稿しよう!