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「どうして、っていろいろ聞きたい顔をしているね。いいよそのおびえた顔。いやいや、こんなものじゃないよね。もっと怖がってほしいし、これを見せたら納得もするよね」
ニチャァっと彼の口から粘つく音が聞こえた。背後から、ズルズルと、細長い巨大な影が姿を現す。赤黒く光る甲殻、パイプのような太い節の脚。刀剣じみた牙を持つ顎は、ヒトの頭だって丸かじりしそうだ。何かの間違いのような巨大なムカデ。現実ではない光景が広がっているのに、脳が、現実だとして私に認識させたがる。
「どう、して。どうして私が、こんな―――――」
「どうして? どうしてって、それは、君も選ばれたからさ。見えてるんだろ?君もあのメールを受け取って、返した。さっきの、君の友人の、確か……、杉浦さんだっけ。あの子も見えていたみたいだからね。そりゃあ殺さなきゃいけない。ほらだって、僕もそうだってばれたら、彼女に殺されるかもしれないからさ」
静谷君は楽しそうに、早口でよくわからないことを喋り終えると、私のそばに何かを放り投げた。それは、何かに齧り落とされたヒトの指だった。先の光景がフラッシュバックする。公園のベンチ。一緒に話していた友人の首が落ちる。分けもわからずに悲鳴を上げた私の目の前に化け物が現れて、私は全力で逃げ出した。
ふくらはぎに、生暖かいものが広がるのを感じた。静谷君が、満足そうに顔をくしゃくしゃにした。
「おびえる静谷さんの顔、ゾクゾクする。たまらない。でも、違うんだよ。君は殺さない。僕は君が大好きだ。半年前、ノートを忘れた僕にレポート用紙をくれたこと憶えてる? 君のあの時の、微笑んだ表情がとっても可愛くてね。一目ぼれってやつかなぁ。あの日からずっと君を見てた。願ったんだよ。『好きな子とずっといられる小さな部屋』を。君を近くで感じられるのはあの移動教室だけだったから。あの授業の時間。あの教室で過ごす時間が、一生続けばいいって思ってた。だからさ、そんな世界がほしいって神様に願ったんだよ。そしたら、本当にできちゃったんだよねえ。こいつは、脚の数だけ小さな部屋を作ってくれるムカデ。神様からのプレゼントさ。ここで静谷さんと僕は一生暮らすんだ。ずっと愛してあげるよ。一緒に、願いをかなえようよ―――――」
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