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気がつけば窓の外はすっかり暗くなり、自動点灯するように設定していたツリーがゆっくりと光を灯し始めていた。
白一色で統一した優しく光るイルミネーションをまとったシンボルツリーが暗闇の中にその姿を浮かび上がらせた。
白い光をまとった一本一本の枝が織り成す小さな光が銀世界の中でより一層、輝きを放った時だった。
綴じていた悠人の瞼が少しずつ開ゆっくりときまばたきを繰り返す。
「悠人っ !! わかるか!悠人?」
「こ……う き」
酸素マスクの下で小さく動く口元。
「よかった!ホントに良かっ……」
ボロボロと溢れる涙が声を詰まらせる。
ツリーの放つ白く優しい光に病室は包み込まれ、小さく頷く悠人の口元が
『あ り が と う 』
とゆっくり動いた。
ツリーから天に向けた一本のサーチライトが夜空を照らすと、降り続ける雪は光を浴びて、星のように光り輝いていた。
「悠人、見える?あれが俺の作品だよ。希望の光。希望のシンボルツリー」
こくりと頷く悠人の瞳には、しっかりとツリーの灯す光を映している。
「や く そ く…… あ り が と な」
声にならない声を紡ぎだす悠人の口元。
と、同時にベッドの中から震える右手を差し出した。
希望の光に包まれた俺達は、10年前と同じように固い握手を交わした。
強く握り返した悠人の右手は温かくて、柔らかくて……
白いシンボルツリーの向こうでイエス様とサンタが笑ったような気がした。
END
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