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何も言わず静かに病室のドアを閉めた時だった。
「くっそぉぉぉ!
うっ、うぅっ……
うわぁぁ」
堰を切ったような悠人の泣き声が廊下に響きわたる。今まで堪えてきた悔しさを吐き出すかのような泣き声。
病気になってから悠人が泣いたのは始めてだった。『治らない』と言ったあの日だって悠人は気丈に笑ってたのに……
くぐもった泣き声は、布団を被り声を押さえようとする悠人の姿を浮かび上がらせた。
ごめんな、悠人……
ごめん、ごめんな……俺、なんにもしてやれんで。
心の中で何度も何度も謝りながら声を殺して涙を流した。
廊下に座りこむ俺の心に悠人の泣き声がしみていく。
やり場のない怒りと悔しさと情けなさに押し潰されたまま、いつまでもその場所を動けずにいた。
その後、病院に足を遠ざけていた俺は卒業後の進路が決まった高3のクリスマスの夜、久しぶりに悠人の病室へと向かった。
「よっ!久しぶり」
「こ、光樹……」
「最近調子いいんやってな?」
「光樹も……元気そうやん」
一年以上前の出来事がよみがえったのか、少し気まずそうな悠人に一枚の紙を見せた。
「外出許可願?俺の?」
「そっ!おばさんにも主治医にも許可とってきた。車が下で待ってるから、これに着替えなよ」
手渡した紙袋を覗き込む悠人は心底不思議そうに呟いた。
「何処行くんよ?」
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