X'masの約束

5/10
前へ
/10ページ
次へ
何も言わず静かに病室のドアを閉めた時だった。 「くっそぉぉぉ! うっ、うぅっ…… うわぁぁ」 堰を切ったような悠人の泣き声が廊下に響きわたる。今まで堪えてきた悔しさを吐き出すかのような泣き声。 病気になってから悠人が泣いたのは始めてだった。『治らない』と言ったあの日だって悠人は気丈に笑ってたのに…… くぐもった泣き声は、布団を被り声を押さえようとする悠人の姿を浮かび上がらせた。 ごめんな、悠人…… ごめん、ごめんな……俺、なんにもしてやれんで。 心の中で何度も何度も謝りながら声を殺して涙を流した。 廊下に座りこむ俺の心に悠人の泣き声がしみていく。 やり場のない怒りと悔しさと情けなさに押し潰されたまま、いつまでもその場所を動けずにいた。 その後、病院に足を遠ざけていた俺は卒業後の進路が決まった高3のクリスマスの夜、久しぶりに悠人の病室へと向かった。 「よっ!久しぶり」 「こ、光樹……」 「最近調子いいんやってな?」 「光樹も……元気そうやん」 一年以上前の出来事がよみがえったのか、少し気まずそうな悠人に一枚の紙を見せた。 「外出許可願?俺の?」 「そっ!おばさんにも主治医にも許可とってきた。車が下で待ってるから、これに着替えなよ」 手渡した紙袋を覗き込む悠人は心底不思議そうに呟いた。 「何処行くんよ?」
/10ページ

最初のコメントを投稿しよう!

76人が本棚に入れています
本棚に追加