序章 発端

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   暗い森の少し奥で、男が一人、狂喜していた。 「やった……やったぞ!」  彼のブーツも、ローブの裾も、ここへ歩いてくる間に泥まみれになっている。だが彼はそんなことよりも、手の中のものに夢中だった。  名はアシル=エトナ=バルドー。アルタンテ国の魔術士である。所属は王の住処・御城(ごじょう)を守る禁士隊。今この時、森を出てすぐのところで訓練が行われている。  彼は、仲間である筈の兵の間では笑われ者だった。  落ち着ける状況でなければ詠唱もままならず、いざという時に全く使い物にならないのがその理由。  また、女性のようなほっそりとした体格と儚げな容姿、内気な性格も相まっておよそ“男らしさ”がないのも原因のひとつだ。  落ち着いてさえいれば、千人力と称えられる程の実力があるのに。
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