30人が本棚に入れています
本棚に追加
暗い森の少し奥で、男が一人、狂喜していた。
「やった……やったぞ!」
彼のブーツも、ローブの裾も、ここへ歩いてくる間に泥まみれになっている。だが彼はそんなことよりも、手の中のものに夢中だった。
名はアシル=エトナ=バルドー。アルタンテ国の魔術士である。所属は王の住処・御城(ごじょう)を守る禁士隊。今この時、森を出てすぐのところで訓練が行われている。
彼は、仲間である筈の兵の間では笑われ者だった。
落ち着ける状況でなければ詠唱もままならず、いざという時に全く使い物にならないのがその理由。
また、女性のようなほっそりとした体格と儚げな容姿、内気な性格も相まっておよそ“男らしさ”がないのも原因のひとつだ。
落ち着いてさえいれば、千人力と称えられる程の実力があるのに。
最初のコメントを投稿しよう!