1.雪の日の夜 

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「あらっ。残念。  初めてなのよ。  あの子が  うちに女の人連れてきたの。  だから……。  外は雪降ってるし、  良かったら  お泊りしていってちょうだい。  病室で良かったら、  開いてる部屋もあるから。  後で、着替え私のものだけど  持って来るわね」 にっこり笑って出て行った 看護師さんと入れ替わりに、 少年がまた姿を見せた。 今度は、制服から 私服に姿を変えて。 「今日、  お泊りコース決定らしいね。  まっ、今は足首  無理しないほうがいいだろうし。  ドンくさいから、  また姉さん  転がっていきそうだし」 そう言いながら、 彼はまた私の前に 中腰になる。 求められるままに 彼の背中に体を委ねると そのまま、 今日泊まることになった 病室へと 連れて行かれる。 「はいっ。  今日の部屋ね。  姉さんの名前は?」 私をベッドにおろして ベッドサイドの パイプ椅子に腰掛けて 質問してくる。 「結城神楽」 「ふーん。かぐらって、  どうやって書くの?」 「神様の神に、音楽の楽。  神楽舞の神楽」 「なんか、  オメデタそうな名前だね。  俺は、多久馬恭也  (たくまきょうや)。  浅間学院の高等部。  今は大学受験前。  ちなみに今週末は、  センター試験」   センター試験って。 「試験前に、  こんなに私に  時間割いてていいの?」 思わず問いかける。 私がセンター前なんて 受験勉強に 必死だったのに。 「やるべきことは  終ってるから。  後は、受験だけだし。  明日、送ってくよ。  家でも職場でも」 その日、 食事のときも 恭也君が一緒に居て…… 眠る直前まで 一人じゃない 誰かが居る時間を過ごした。   久しぶりに…… 一人以外の時間を 過ごした夜。 誰かと一緒に 食事をするのが こんなに 優しいことだなんて ずっと忘れてた。 温もり。 人と触れ合って 過ごす時間が こんなにも 暖かいなんて 何時の間に 忘れてたのかしら。 ぬくもりの余韻に 溺れながら 静かに目を閉じた夜。 寂しさに 凍りつきそうな 時間が、少しだけ 溶けてくれた気がした。
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