1.雪の日の夜 

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気合を入れて、 教室用のインストラクターの制服に着替えると、 グループレッスンの教室へと顔を出す。 音楽の楽しみ方を知って貰うための授業を 1時間終えると、文香と合流して一回のサロンへ。 一曲目は、掴みが肝心。 商店街を歩いてる人、 店内に居る人たちの注目を引かないと。 文香と二人、 劇場最新作の映画のテーマ曲を ピアノとエレクトーンのアンサンブルで お披露目。 拍手の後は、 ピアノのオンリーステージ。 続いて、エレクトーンのオンリーステージ。 最後は、体験レッスンの宣伝をして フィナーレとなるアンサンブル。 サロンコンサートを演奏し終えて、 そのまま着替えを済ませた。 「お疲れ様。  神楽……、今日はあがり?」 エレクトーン講師の親友、文香が 近づいてくる。 「午後は出張かな」 生徒さんの自宅を一軒一軒、 移動しての個人レッスン。 「うわっ。  こんな日に大変じゃない?」 文香の言葉に、思わず窓から外を見ると 降り始めていた雨は、 真っ白い雪へと姿を変えて、舞い踊っていた。 「うわっ。  見るんじゃなかった。  寒そう……」 「さて、出張の前に腹ごしらえ。  いつものところにランチ行こうか?」 文香に誘われるままに、 何時ものお店で、ピザをつまんで 午後からお邪魔する生徒さんの自宅に向かうため、 地下鉄に乗り込んだ。 地下鉄に乗って、バスに乗って。 公共機関を乗り継ぎながら、 雪の中、傘をさしながら 辿りついた生徒さんの自宅。 迎え入れられた先々で、 お茶をごちそうになりながら レッスンを続けて…… ようやく終わった最後の生徒さん。 チラリと腕時計を見つめると、 時間は21時をまわっていた。 「優華ちゃん、今日のレッスンは  ここまでにしたいと思います。  大学入試の為の、実技演奏。  この調子で緊張せずに望んでくださいね」 そういうと、ピアノの前に並べられた 椅子からゆっくりと立ち上がった。 「わざわざ、こんな天気の中  有難うございます」
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