1.雪の日の夜 

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優華ちゃんのお母さんに 玄関まで見送られながら、 温かい空間を後にした。 傘をさして、玄関から一歩外に出た私は 自宅に帰るために駅へと向かう。 優華ちゃんの自宅は、 急な坂の上にある。 雪が寒さに冷却されて、 凍りついたようになっている道路。 時折、ツルツルとスペル足元を 踏みしめながら 一歩ずつ足を出していく。 傘は持ってるけど…… さすんじゃなくて、杖がわり。 馴染のない雪景色に 苦戦したらしい車たちは 坂道の途中で何台も 動けなくなっていた。 水気を含んで 少しずつ重たく感じる コートに 体を小さく縮めて 少し速度を速めかけた時、 ツルンとひっくりかえった私は、 坂の上から下まで、 滑り落ちる。 太もも辺りを 雪の地に擦りながら。 「あぁん。  もう、ついてない……」 ため息を一つ吐き出して、 ゆっくりと その場から体を起こして 立ち上がろうとした時、 左足首に ズキンと痛みが走った。 スカートを穿いていた私の太ももは、 斜面を滑り落ちた際に、 擦り傷だらけで、 ストッキングを血に染める。 破れてしまった ストッキングもみすぼらしい。 雪の日向きの靴をはかなかった私も悪いかもだけど、 足から脱げてしまった靴も、 無造作のに坂の途中に置きざりになってる。 痛みの残る左足首をかばうように 何とか立ち上がると その靴を取りに行く気力もなくて、 片足を引きづりながら、 駅に向かって、 ゆっくりと歩き出した。 こんな時でも…… 両手を守ろうとする私。 両手で体を支えて、 体を守ろうとしない私。 それもまた 幼いときから、 両親に教えられたことが 癖となって染み付いてる。 ……バカみたい……。 小さく吐き出す。
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