1.雪の日の夜 

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「ねぇ、  お姉さん大丈夫?」 必死に歩く私に 声をかけた年下の少年。 声がした方を見上げると、 高校生っぽい制服を着た 少年が、心配そうに 私のほうを見つめてた。 「有難う。  でも大丈夫だから」 惨めな自分自身に 関わって欲しくなくて、 無意識に 遠ざけようとする心。 「大丈夫に  見えないんだけど」 その少年は、 そう呟くと 傘を私に握らせて 道路の壁側に 私を押し付けると、 その場に 素早くしゃがみ込む。 彼の手が 足首に触れる。 「……やっぱり……。    熱持って 腫れてるんだけど。    姉さん、何したの?」 問いただすように、 真っ直ぐな瞳を向ける その少年に 言われるままに 私は…… 自分の身に 起きた出来事を 呟いていた。 「ってか、姉さん。    普通、あの坂から  滑り落ちる?  滑るのは……  スキーとか、スケートとかさ  遊ぶだけにしなって」 そう言いながら、 自分の体を 起こした少年は、 私の前に ひょいと立って 屈みこむ。 「何?」 「何って、  見てわかんない?  おんぶ。  痛くて歩けないでしょ。  俺の家、近くだから。  足、手当てくらいなら  出来るし。  素直に背中に  おぶさりなって」 差し出された手を 跳ね飛ばして、 自分で歩くこと 出来たはずなのに 拒絶することすら出来ずに 私は彼の世界に 体を預けた。 彼に揺られて 辿り付いた場所は 多久馬医院と 表札に書かれた 小さな病院。 その建物の中に 入っていくと、 診察室って書かれた 小さな部屋へと 私を座らせる。 「恭也、  どうしたの?」 受付から、 ナース服の 女の人が診察室へと 入ってくる。 「母さん、  親父は?」 「お父さんは、  二階の書斎だと思うわ」 「書斎、呼んでくるよ。  桂坂で転げて、下まで  滑り落ちたらしくて  左足首、腫れてるから」 恭也と呼ばれた その男の子は、 そのまま 診察室を出て行く。 母親らしい人と 二人だけに 残された診察室。
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