1.雪の日の夜 

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「まぁまぁ、  こんな濡れて。  ほら、コート脱いで。  ストーブに  あたりなさい」 濡れた服を脱がせて コートをハンガーに かけると、 今度は、靴を脱がせて ストッキングを 下ろすように促す。 擦り傷が 出来てるところを発端に、 伝染したストッキング。 「母さん、  親父連れてきたよ」 ノックもせずに 診察室に飛び込んできた 男の子は、次の瞬間 謝って、 診察室の扉を外から閉めた。 傷口の太ももが むき出しにして スカートを めくりあげていたから。 看護師さんが、 にっこりと微笑んだ後、 診察室のドアを開くと、 白衣を身につけた 親父と呼ばれた先生が ゆっくりと姿を見せる。 傷口を消毒して 手当てした後、 そのまま、 足首のレントゲンを確認して 捻挫だけだということがわかると 湿布薬をはって、 足首を固定してくれた。 処置が終った後、 先生は、 また診察室を出ていく。 入れ替わりに入ってくる、 助けてくれた少年。 「捻挫で終って良かったね。  この間は、雨の日に桂坂で  滑り落ちたおばあちゃん、  運ばれてきたけど、  骨折してた」 「こらっ。  恭也、なんてこと言うの。  山瀬のおばあちゃんと  比べちゃダメでしょ」 二人のじゃれあう 姿を見てるのは なんか楽しかった。 私がどんなに望んでも 得られないものだから。 「あなた、お名前は?」 求められるままに、 連絡先を書くと、 財布の中から、 診察代を支払おうと お札を取り出す。 そのお札を、 看護師さんはゆっくりと 私の財布の中に戻させた。 「恭也が強引に  連れて来たのでしょ。  だったら、患者さんじゃなくて  恭也のお友達ってことで。  あなた、  恭也の彼女なのかしら?」 突然の言葉に、 首を慌てて 横に振ることしかできなくて。
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