最終章

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壁全体が窓のような大きなウインドーから、次々へと飛行機が飛び立つのが見える。 奏と榊は、並べられた椅子に座りながら待つ。 月島は、出発ゲートへと集まって来る人の流れを見ていた。 榊「ユキさん、来るでしょうか?」 奏「来るさ」 月島は落ち着いて立っているように見えたが、ユキに似た女性が通る度に、息をのんでいた。 …どれくらい、そうしていたのか おもむろに、アナウンスが入る。 「13時発 羽田行き。 搭乗を始めました。 お手続きが、お済みでないお客さまは…」 月島の肩を落とす姿が目に映る。 奏「榊」 榊「はい」 奏「ギリギリまで待つぞ」 榊「そうですね」 駆け足で搭乗ゲートに来る客を見ていても、その中にユキの姿はない。 涙ながらに、別れを惜しむ恋人たちの姿も、今の月島にとっては、つらいものだろう。 そうこうしているうちに、搭乗ゲートの人は、まばらになる。 「あの…失礼ですが…」 奏と榊に話し掛けてくる声がして、顔を上げる。 そこには、搭乗案内の格好をした女性がいた。 「大神様、月島様、皇様ですか?」 奏「ああ。月島はあっちの男だ」 「お時間が迫っております。ご搭乗下さい」 榊「もう少しだけ、待って頂けませんか?」 奏「人を待ってるんだ」 女性は、乗客名簿をめくる。 「華村ユキ様をお待ちですか?」 奏「ああ」 「残念ですが、もう時間がありません。 これ以上は、フライトに支障が出てしまいます」 奏と榊に言葉はない。 奏は立ち上がると、月島の傍に行き、月島の肩を叩く。 奏「時間だ」 悲しみを瞳に宿した月島が振り返る。 月島「そうか」 月島と奏、榊は搭乗ゲートをくぐり、飛行機の中へと入った。 すでに、他の客は座っており、チケットを見ながら、月島たちは進んでいく。 一番後ろの座席に4つ空きがある。 榊「ここですね」 言葉少なに、3人は座席に座る。 窓側に月島。そして空席。 通路を挟んで、奏と榊。 月島は、窓にうなだれる。 榊「若…」 奏「そっとしといてやれ」 月島たちの席から扉は見えなかったが、当然のように、扉の閉まる音が飛行機内に響いた。 そして、飛行機のエンジンが掛かる。 .
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